マシュマロドミノ



「…何やってんの?」


 洗濯から戻って、部室に入ってみると、何故か日吉がいた。彼は机の上に救急箱を広げたまま、あたしの台詞に目を合わせ、わざとらしく「あ」といった顔をした。でも、すぐに目線は外され、しかも軽くシカトされる。素直じゃない、それもとことん。溜息をついてもう一度訊ねる。べつに訊ねなくても何やってるかはみれば分かるんだけどさ。


「何やってんの?」
「怪我をしたので治療を。」


 何だよ、やっぱりそんなことかよ。つか、怪我したんなら言えよ。これでも一応氷帝テニス部のマネージャーなんだからさ、あたし…。日吉らしいと思う反面、呆れ半分といった感じに、あたしは彼の隣に腰掛ける。案の定睨まれた。こいつ、絶対あたしのこと先輩と思ってない。だって、顔に「先輩は関係ないのでどこか、別の場所に行っててください。」って感じのことが書いてあるもの。


「何をする気ですか?」
「ピヨシ君の治療をする気です。」


 座りながら近い方から、先ず彼の左腕を掴んで軽く引っ張ってみる。反応なし、今度は右腕、同じようにやってみると、今度は僅かだか肩が動く。絶対に言わないと思ったから、あえてこの方法でやらせてもらった。人間、痛みに慣れる場合もあるけど、負傷した場所への痛みに対しての反応には、流石に隠しきれない場合が多い。
 右か。ったく、とことん素直じゃない奴…。


先輩、ここにピヨシなんて輩いません。出て行ってください。」
「出てなんか行きません。右腕のどこ?」
「…自分ででき…」
「どこ?」


 彼の言葉を遮り、有無を言わさずそう問えば、渋々といった感じに半袖に隠れた右肩を晒す。そこには、できたばかりだと思われる赤い鬱血が見えた。ボールが当たったかなんかしたか、そう言えば今日の日吉の連取のパートナーは長太郎だった気がする…。
 あいつ、ノーコン日吉に当てたな…。


「あーあ、でっかい痣。」
「べつに、これくらい平気ですよ。」
「まあ、日吉にとっては平気だろうけど、チョタにとっては平気じゃないんだろうね。」


 アレでしょ。チョタに当てられた時、何度も謝られて、何度も手当てするってきかなかったから、自分でやる、って言ってここに逃げてきたんでしょ?ニヤリと笑って、そう言えば、案の定、反応は戻って来なかった。…図星、か。
 大体の治療を終え、「はい、終了。」と言って立ち上がる。もともと、部室に戻ったのはちょっとした時間の合間ができたからだ。このあとは、テニスコートの近くでストレッチとかタイム計ってたりする部員のサポートに入る。


「じゃあ、今度からはちゃんと怪我したらあたしに言うように。一応、これでもマネージャーですから。」
「無理をするなとは言わないんですか?」


 包帯の巻かれた腕を、確認するように動かす。


「言わないよ。だって、言ったとしても守んないでしょ?」


 そう言ったらちょっとだけ笑われた。つか、鼻で笑われた。


「先輩らしいですね。」
「そう思うんだったら、もうちょっと先輩扱いしてください。」
「無理です。」


 即答ですかー…。


「でも、」
「ん?」


 はあー、と溜息をつきながら、ドアノブに手を掛け、半分扉を開けたあたしは、彼の中途半端な言葉に足を止める。


「感謝は、しています。」


 思わず、笑みが零れる。全く、素直じゃない奴。


「ありがとう。」


 そう言って、あたしは部室を後にする。