[006] begin began begun
「あなたも頑張りますね。」
「……。」
下から上がった声に、俺は呆れ目で答えた。にこやかに微笑むコイツに若干の鬱陶しさを感じながらも、近づいてくる姿を、拒むことはしない。
この町で俺の姿を視認できる人間は限られている。そして、こんな真っ昼間から話しかけてくるやつは、ひとりしかいない。
「お前は、サボっていないで仕事をしたらどうだ?」
「アタシがいなくても、あの店は大丈夫ですよ。」
仕事熱心な従業員がたくさんいますから。なんてぬけぬけとそう言いながら、浦原 喜助は俺の隣に腰を下ろした。普段、一護がいる場所に違うやつがいるおかげで、なんだか違和感を感じて、俺は膝を抱えなおす。浦原 喜助、浦原商店店長であり、自称ハンサムエロ店長。まったく馬鹿げた名前だ。昼間から公園なんかに来て、何がハンサムエロだ。
公園で子供の遊ぶ姿を見るのも、もちろん退屈だが、喜助と話しをするのは、少々疲れる。
喜助という人間は、何かと理由をつけては俺に絡んできて、それは尸魂界でも同様だった。
「制服、似合ってるじゃないですか。」
「ああ、まあな…。」
言われて、ズボンの裾に目をやる。長めに設定された丈のそれは、いつも踏んでしまうので、かなりヨレヨレになっていた。
数日前にこれを調達してもらえるように彼に頼んだ理由は、一護にきっかけを与えるためだ。方法はどうだとしても、向こうに俺の存在を認知させる必要があった。そのためには、この制服の方が覚えやすいし、親しみやすいだろう、と考えて、結果、俺と一護は今、とりあえず知り合い程度にはなっているのだろう。別にならなくてもよかったが。とにかく、俺の存在を向こうが知っていればいい。
「でも、まさかさんにそういう趣味があるとは思いませんでしたよ。」
「勘違いするな。事情があるんだ。」
「…アタシにも教えられないようなものですか?」
「ああそうだ。悪いな。」
この世界についての知識があるということは、誰にも話してはいない。総隊長にだって、それなりなことを言ってはぐらかしている。ましてコイツに言いでもしたら、マイナスなことしか起こらないような気がする。長年の付き合いから来る勘だ。
それに、異世界人という単語を、あまり公言したくはない…。
「もう、またそんなこと言っちゃって。アタシと陵さんの仲じゃないですか。」
「そんな関係になった覚えはない。キモイ、寄るな。」
のしかかろうとする喜助を右腕で防ぎながら、懲りてない。コイツ本当に学習能力皆無だ。なんて思ったり。
それから喜助はかたちだけの落胆の様子で、隣に座りなおして、
「黒崎さんたちに、何をさせようとしているんですか?」
いつになく、真剣なその声音に、怯むことはなかったが、窺うように目だけを彼に向けたけれど、目深に被った帽子の所為で、その表情は分からなかった。
まったく…、自分のことを棚に上げて、よくそういうことを訊ける。俺が未来を知っているなんて、露ほども知らないだろう喜助に、内心でそう毒づき、視線を前に戻して、
「それはお前だろ。」
喜助は自嘲気味に少し笑った。
「あなたには、昔から隠し事ができなかった。」
「買いかぶりすぎだ。」
そしてまた少し笑って、喜助は来たとき同様に、飄々とした態度で帰っていった。