[025] drink drank drunk



は、いつから俺の傍にいたんだ?」




 紅茶のカップがかちゃりと陶磁器独特のかろやかな音を響かせて、テーブルに置かれた。アーサー直々に淹れられたそれは、いい香りを辺りに広げて、ふたつのティーカップと他に、山盛りのスコーンもあり、つまりアフタヌーンティーである。俺はなんとなく暇だったワケで、彼のところに遊びに行ったらちょうど、いい時間だったということ。
 本日のロンドンは目も眩むほどの快晴である。心地よい陽気にガーデンテーブルを囲むように植えられた花たち。ティータイムの環境としてはバッチリだったけれど、彼の焼いたスコーンに手が伸びることは全くないだろうな。




「いつから?なんて、そんなの初めからじゃないか。アーサーが生まれたときから、俺は隣にいたぞ?」
「…ふーん」
「?何で訊いたんだ?」
「いや、少し気になっただけだ」




 なんでもないと、そういう風にアーサーは手を振ったけれど、気にするなと言われれば逆に気になるのが人という生き物である。まあ、正確に言えば俺もアーサーも「人」ではないのだけれどな。




「何だよ、よく分かんないな…。でも、そういえば昔のアーサーはスッゴい可愛かったよなあ。ことあるごとにな、俺んとこに泣きついてくんの」




 やれ兄さんたちが怖いだとか、やれフランシスが気持ち悪いだとか。今の完璧なツンデレとはほど遠いくらい可愛かった…。思い出して自然、頬の筋肉が緩んでしまったけれど、対するアーサーは予想通り嫌そうな顔をしてジト目で俺を睨んだ。




「いつの話だよ、それ。ちょっとした気まぐれで訊ねたんだ。昔の思い出なんて引っ張り出さないでくれ」
「フランシスと俺が一緒にいたときなんて、アーサー、お前、俺にべったりへばり付いて離れなかったよな?あれって何だったんだ?もしかして嫉妬?」
「なわけねーだろ。それ以上無駄口を叩くようなら、その口使いもんになんなくすんぞ」




 元ヤン時代のテンションで凄みをきかせてくるけれども、生憎と俺にそれは全く効かないよ。だって小さいときの彼の姿を知ってるしな。どうしてもアーサーが怖いとは思えないし、それにあいつが俺に何かできるとも、俺は思っていない。なんだかんだで、甘ちゃんだからな。優しいやつだし、アーサーって。
 そのあとも、なんだかんだでぐだぐだと話が途切れることはなく、彼は一言、「調子、戻ったんだな…」なんて言ってきた。




「ああ?調子?なんのことだよ、別にいつもと同じだったろ?」
「いや、だって…お前、一時期…」




 そこまで言っておいて、けれど彼はそれ以上は閉ざしてしまった。何か言いたげな目線、けれど踏み込まないその姿勢。俺は淹れられた紅茶を喉に流し込む。時間が経っても彼の紅茶は美味しくて、あっぱれだ。俺は気紛れに、スコーンにも手を伸ばしてみた。アーサーはぎょっとしたような顔をした。それにちょっと笑う。それが見たかった。彼の意表を突きたくて食べたけれど、出しておいてその顔はないんじゃないのか?




「相変わらず紅茶は美味しいのに、こっちはからっきしだな」
「っ、だったら食うなよ!」
「はは、こちらも変わらずのツンデレ具合。…ほんとご馳走さまですよって」
「五月蝿い!そ、の…菊も言ってた…「つんでれ」?っていったい何なんだ?」
「ん?ああ、あんまり気にすんな」
「???おい、説明しろ。なんて意味なんだよ?」
「分かる人にしか分からないさ。フランシスにでも訊いてみたら?きっとあいつなら手取り足取りナニ取り甲斐々々しく教えてくれると思うよ」
「ば、バカ!きめーこと言うな!の所為で鳥肌立っただろ!!」
「はは!あっれー?アーサー・カークランドさんはいったい何を想像して鳥肌なんて立たせたのかなぁ?」




 わざとらしく語尾を伸ばして訊ねたら、アーサーは顔を真っ赤にしてもう一度バカぁ!と叫んだ。ああそうだよ、間違いなく俺はバカだ。それでいて間違いなく俺は幸せ者だ。だってこうやって元気付けようとティータイムを開いてくれる友達がいるんだもの。これが果報者と言わずして何というのか!
 ツンデレに万歳!やっぱり俺はこうでなくっちゃ!心の中で叫んで、俺はスコーンの口直しに紅茶を一気飲みした。






(140225)