[038] grow grew grown



 久しぶりにマサラタウンに戻ってみた。特にこれといった理由はない。いつもの気まぐれってやつだ。ナナコさんと博士に挨拶をすましてから、今は郊外の高台にいる。空がキレイで、風が気持ち良くて、ここからだとマサラタウンが一望できるしで、なんだか今まで忙しかったんだな…、なんて。…って、これじゃあ、なんだかあたし、生き疲れたサラリーマンみたいだ。外見と実年齢がまるであってない。…まあ実際、あってないけれど…。そう思って、「はあ」と嘆息。
 あたしは元々、この世界の住人じゃない。俗に言うトリップというやつに、やられてしまったらしい。しかも何故か身体は9歳に戻ってしまっていたの状態で。だから身体年齢が14に戻った今、精神年齢の方は19になってしまって、非常にマズいことになってしまった。早く大人になりたいような、なりたくないような…。




「なんだか、笑えない話…。」




 流石にこれはあんまりかもしれない。そういう感じに独り言。かと思ったら、思わぬ返答があった。




「なんだよ、いきなり故郷に戻ったと思ったら、その台詞。」
「ん…、まあちょっとね…、って、あれ…そっか。」




 あたし今、独りじゃなかった。
 腰のボールに視線を落とす。中のピカチュウ、キセキが暇そうに欠伸をしていた。そうだ、一匹だけ、いざと言うときのために博士に預けなかったんだっけ…。うっかり忘れてた、キセキの存在。
 そしてこれも、うっかり忘れる事項だけど、あたしはポケモンとフツーに会話ができる。トリップにありがちな特殊能力みたいなもので、でもそれも、全ての個体と喋れるんじゃなくて、どうやらあたしが現実世界で育てていたポケモンだけらしい。だから野生のポケモンが何を言っているのかは、理解できないし、だから、うっかり忘れるんだよね。自分がポケモンと喋れるってこと。
 ちなみに、あたしと喋っているときのキセキの鳴き声は普通のピカチュウの声と一緒のように聞こえるけど、同じポケモンがその声を聞くと、どうやら理解できない言語を使っているらしくて、なんだかよく分かんないけど複雑なシステムらしい。




「もしかして、俺の存在忘れてたとか言わねーよな…。」
「いや、…あはは。」




 痛い所を突かれて、思わず苦笑いすれば、瞬間、腰からビリリとした痛み。キセキの電気ショックだろう。流石にこれは痛いけれど、文句は言えない。悪いのは自分だ。でもしょうがない。だって、オーキド博士に全部預けたと思ったから…、なんて言い訳、か。




「お前、マジでヒデー性格してるよ。」
「まあまあ、 はそういう奴でしょ?」
「それ、自分で言ってて虚しくねーか?」




 その台詞にも、さっきの言葉を繰り返そう。




「今度は何するんだ?レッドとサトシには会いに行くのか?」
「いや、彼らは今ここにはいないよ。さっきナナコさんに確認した。」




 昔、いろいろあって、あの人たちとは面識がある。話せば長くなるから、今は割愛させてもらうけれど、とりあえず言えることは、レッドとサトシ。あいつらは兄弟だ。レッドが兄で、サトシが弟。知ったときは本気でビビった。まさかの展開だ。予想外すぎる。年の差は2歳くらいとか言っていたような気がする。ちなみに今彼らは、どちらも旅に出ていて、どこにいるのかはあたしも分からない。
 原作沿いでいうならば、今はロケット団は潰れてて、レッドもリーグ優勝し終わった時期だと思われる。あまり確証は持てないけど、たぶんその辺で大体あってるだろう。




「…、どうする?何するキセキ?久しぶりにゆっくりできてるんだよ。」
「やっぱ無計画か、お前。」




 呆れたような声。なんだよ、あたしが無計画野郎だって、今に始まったことじゃないじゃん。言い返そうとして、あたしはやっと後ろから近づいてくる足音に気付いた。




「……?もしかして、?」
「ん?…ん?あ!レッドじゃん!!」




 振り向いて、声のした方を見れば、相変わらずの癖っ毛。レッドがそこに立っていた。噂をすれば影、ってやつなんだろうか…。どっちにしろ、嬉しいことに変わりはない。あたしは立ち上がって、彼の元に駆け寄った。




「奇遇!どうしたの?」
「あ、えっと、博士からソウトがいるって連絡貰って、ちょうど近くにいたから…。」
「おわ、博士、あたしが帰ったあと、そんなことしてたんだ…。」




 近寄って、さり気なく身長まだあまり変わらないな…、なんて考えながら、オーキド博士の真意を考えてみる。近況報告みたいなものかな…?だったらサトシも…、いやそれはないか。レッドのタイミングが良すぎただけだ。




「うん、でも、お互い旅してるのに、偶然会うって、まるで運命みたいだね。」
「運命って、…流石に言いすぎだろ。」




 ほんとにスゴい嬉しくて、さらにレッドの手を握ってブンブン振った。振られてるレッドは、ちょっと戸惑いながらも、でも嬉しそうで、ああ、里帰りもしてみるものだな…、なんて柄にもなく思ってしまった。