[048] lead led led



 久しぶりに中学に行きたくなった。そうしたらいてもたってもいられなくなって、気づいたら夜の道を駆け抜けて、もう着いちゃったとかいう…。こういう行動をしてしまうところ、俺もまだまだガキだ。スピットのはしゃぎっぷりに比べれば、まだマシな方かもしれないけれど…。あまり他人のことは言えないな。
 屋上のコンクリートに、ガツリと衝撃音。いつものようにコンタクトで、風が強かったけれど、別に耐えられないほどではない。ゴーグルを外して、風をいっぱいに感じる。…そういえば、中学生の頃はよく、この屋上でサボったっけ…。柄にもなく、感傷なんかに浸っていた所為か、誰かが先に来ていたことに気が付かなかった。




「あれ、あんた…確かこの前、試合してたよな?」
「ぁ…?あー…、そういやお前の顔、どっかで見たことあるな…。」




 弾かれたように、声のした方へ視線を投げる。予想外に、母校の屋上には先客がいたらしい。ニット帽の少年。背格好からして中学生だろうか。もしかしたら、東中の生徒かもしれない。見たことがあるような、ないような…、曖昧な記憶だ。にしても、いつからいたんだろう…。こんな時間にって、俺が言えた台詞じゃないけど、練習してたのかもしれないし、そう捉えれば、少年の肩は心なしか上下しているようにも見えたけれど、もしかして邪魔をしてしまったんじゃないだろうか…。




「えっと、…わりぃ。あんたの顔、いまいち覚えてないんだけど…。」
「……この前、炎の玉璽の奴と一緒に見に来てただろ?」
「スピットとか?…ああ、そういえばそんなこともあったっけ。」




 思い返してみると、そういえばシムカたちと一緒に、南 樹の試合を見ていた覚えがあった。そう言えば、あの試合はここで行われたんだっけか…。でも、悪いな。あの場所にいた膨大な数のライダーの中から、あんたのことは擦れ違ったかもしれないけど、覚えてないんだ。そう言ったら、彼は少し不機嫌そうに顔を歪ませた。




「イッキのチームの仲間なんだ、俺。美鞍 葛馬だ。」
「あいつ…って、南 樹の?ああ、そっか。そうなのか、それじゃどこかで見たことあると思うワケだ。カズマ、カズマな…。ってことは、カズマは今練習中だったりした?」




 邪魔したかな…、と恐る恐る訪ねれば、けれど彼は緩く首を振った。




「別に、練習って言えるほどのことはやってない…。」
「そうか?俺には、練習中のように見えたけどな…。」
「いいんだよ、だから。それよりあんたは?えーっと、さん、はどうして?」
「俺…?」




 最初に、いやでいいから。と前置きして、考えこむ。どうしてって、改めて言われるとどうしてなんだっけ…、って話になんだよな。言葉を探すように、手が首に引っかかったゴーグルをいじる。気紛れと勢いだけでここまで来てしまったけど、自分的にもただなんとなく。と答えるのは、どこか違う気がしたし、けれどそれ以上の言葉が見つからない。




「久しぶりに来てみたくなった、からかな…?」
「東中にか?」
「そ、卒業生なんだ俺、ここの。」




 しばらく沈黙が流れた。あ、れ…?何かマズいこと言ったか?いやいや、大丈夫だよな…。なんて半ば暗示をかけつつ、固まるカズマを窺えば…。




「ってことは、さんは俺の先輩…?」
「ん、やっぱ、カズマも東中?だったらそういうことになるな。」




 なんだかそれが無性に嬉しくて、笑ってしまったら、どうとったのかカズマがイライラ気味に「バカにしてませんか?」と何故か、いやに改まった風に言った。なんだ、こいつ…。俺が先輩だと知って態度変えたな…。にしても、…そう言えば自分にもこんな風に時間帯を気にしないで練習に打ち込んだ時期があったことを思い出した。あの頃から何年も経ってないはずなのに、もうずいぶん昔なような感覚で、時間が経つのは早いなんて、本日二度目の柄にもない考え。
 秋はどうもいけない。昔が懐かしくて堪らない。中学のクラスメイトたちは、元気でやっているのだろうか…。一瞬、泣きそうになって、カズマに意識を戻して、浮かんだ思いを振り払う。




「してない、してない…。でも、そっか、カズマは東中だったのか。っていうことは南 樹もか?」
「ああ、イッキのやつも一緒だ。っていうか小烏丸がそもそも、東中でできてるからな。」
「なんだ、そういうことなら今後、俺に何か手伝えることがあれば、遠慮なく言ってくれよ。小烏丸って言ったら、まだまだスタートしたばっかりだろ?分からないことがあれば訊きに来るといい。」




 先輩なんだし、そのくらいどうってことない。すると途端に、彼はキラッキラした表情をした。若いってなんだかすごいと思わせる一面だ。とりあえず、俺がよくいる場所を教えてやって連絡先を伝える。さすがに電話番号とかは教えられないけれど、居場所を教えるのだって、結構な情報だ。




「後輩だからな。そのくらいいいさ。」




 笑って言えば、彼にも笑顔が浮かんだ。最近、年上とばかり話していた所為か、今日はなんだか俺は気分がいいらしい。そのまま、彼と二言三言喋って、その場を後にした。
 まあ、こんな日が、たまにあってもいいよな…。






(081014)