[051] let let let



 最近、真がヤバいって噂を訊くようになった。なんか凄まじい勢いでやつれているらしい…。あたしとあいつは、幼馴染といっても毎日顔を合わせているわけじゃなくて、だからその噂を訊いたとき、嫌な予感がした。
 真って、いっつも溜め込むんだよね…。周りに何にも言わないし、頼らないし、自力でやろうとするし…。
 だから今、あたしは彼の部屋の前に来てたりする。確かめたいっていうのもあるけど、やっぱりこういうときに力になりたい。いちばん近くにいた者として…。
 廊下にインターフォンのどこか抜けた音が響く。けっこう静かだったから、奥からなにかが動く音が聞こえた。そして、ガチャリと扉が開く。




「こんばんは、真一さん。最近、不調だって噂を…わぁあ。」




 目が合って絶句。なんなんだその隈…。一体、なにしたらそんなに酷くなるんだ?寝不足とかそういう問題でもここまではならないよ…。




「悪いけど、大事な用じゃないんだったら」
「し、閉めようとしないでよ!ちょっと、ホントにヤバいよ真!」




 何か言いたそうな彼を脇に押し退け、無理やり中に入る。なんだか視界がぼやける。灰皿の中に大量の吸殻が見えた。どれだけ吸えばこんな最悪な空気になるんだろう…。もうホントに、悪循環…。あたしは、寒いのを承知で窓を開けた。




「夕食とか、食べた?」
「……。」
「昨日、何時に寝たの?」




 彼は何も言わない。ホントに疲れているのか、無断で色々やってるあたしに文句のひとつも言わない。ただ両目を右手で覆って、壁にもたれたまま。あたしは、手を止めて彼を見つめた。そのままズルズルとしゃがみ込みそうな雰囲気を孕んでいた。




「時間が、」




 やっと二言目。それは本当に小さなもので、でもいつものパターンよりかはマシだった。Sオケのお蔭かもしれない…。
 あたしは、彼の隣に移動した。彼の左手にそっと自分の手を被せる。




「時間が、ないんだ。あともう少しで本番なのに、上手くいかない…。」
「そんなの…、よくあることじゃん…。無理しない方が、いいよ…。」




 灰皿の隣に、おにぎりのたくさん載ったお皿が見えた。きっとのだめちゃんがやってくれたんだろう。たくさん残った、のだめちゃんのおにぎり。きっと真は、何も食べてない。




「寝よ、寝よう。寝た方がいいって。」




 左手を引っ張って、寝室に連れて行く。ベッドに座らせて、正面から目が合う。会話がない。疲れすぎ。あたしができるのは、これくらいだけど…。そっと彼の目の下に触れた。隈を通り越して、落ち窪んでしまっている。
 できることは、してやりたい…。




「寝ろ。大丈夫、こんな頑張ってんだから、ちょっとくらい休憩したって、誰も文句言わないよ!任せて!学校が始まる時間には起こすし、部屋の掃除とか、朝食の準備とか、全部やっとくから!」




 長い付き合いでしょ?あたしの笑顔につられたのか、彼からやっと笑顔が現れる。




「そう、だな…。の朝食とか、拷問みたいだけど…。」
「それは酷くない?前よりかはマシに…、なったと思う。」
「なんだよ、それ。」
「し、しょうがないでしょ!真と比べないでよ!」




 女性よりも料理が上手い男性って、いったい何なんだ。…、まあ男女平等ってことなんだけどさ…。なんか、やられた気分…。




「おやすみ。」
「…おやすみ。」




 あたしは寝室を後にした。