[057] mean meant meant
「やっぱつえーや、先輩…。」
バクフーンをボールに戻して、ゴールドが悔しそうにそう呟いた。あたしは自分のバクフーンを撫でてやりながら、嬉しすぎて、うへへ、なんてキモい笑い声。人と勝負したのなんて久しぶりだった。今まで修行で山奥にいたし、何よりトレーナーとバトルするのが面倒くさかったから。
「さすが、レッド先輩の師匠ッスね。」
「師匠って…。ちょっとの間、一緒に特訓してただけだなんだから、そんなによいしょしないで。ゴールドくんだってなかなかにいい線行ってたし。」
あたしの言葉に、彼は気を紛らすように後頭部を掻いた。その表情に浮かんでいるのは、誉められて嬉しいなんて甘いものじゃなくて、泣きたいのを堪えているかのような笑みだった。悔しいのだろう、きっと。あたしも負けるのは悔しいし、泣きたくもなるけど、でも…こういう場合ってなんて声をかけたらいいんだろう…。
追い討ちをかけるように、あたしのバクフーンが「アイツちょろい。」なんて失礼極まりないことを言ったけど、幸か不幸か、向こうには聞こえない。コイツはそれを見越した上でそういうことを言うから質が悪い。一発殴ってボールに戻す。
「あたしが言うのも何だと思うけど、経験の差じゃないかなぁ?」
かなり苦し紛れだ。…えっーと、確か5歳の頃からポケモンやってたから、単純計算で14年間?だいぶどん引きな数字だったけれど、この世界においてこの数値は強みである。お蔭で、こっちに来てから金銭関係に困ったことはあまりない。財布がカツカツになってきたら、どこかのトーナメントに参加するか、そこらのトレーナーとバトルすれば、お金が貰えた。今思うとなかなかにシビアな世界だけれど、生きていくっていうのは、そういうことなんだろう。
「そうッスかねえ…。」
「そうだよ。それか、あたしの運が良かったとか。」
運も実力の内って2回繰り返して言えば、何スか、それ…。と苦笑された。
「っていうか、まだまだ若いんだから、ゴールドは!」
「…、先輩も俺とあんま変わんないッスよ。」
「それは別にいいの。」
でも実際問題、中二の頃にこっち来て、そのとき何故か身体だけ9歳くらいに縮んでたから、精神的にはあたし軽く19歳にはなっちゃってるんだよね…、あんまり嬉しくないけど。
「とにかく、そうと決まればさっそく特訓しよ!」
「何がそうと決まればなのか分かんないッスけど…、確かにそうッスよね。言い出したのは俺なんだし。ここでいつまでもウジウジしてるのはもったいないッスよね!」
「そうそう、湿っぽいゴールドなんて、あの2人に見られたら笑われるよ。」
俄然ヤル気の出始めたゴールドを見つめながら、あたしも彼が今よりももっと強くなれるように頑張ろうと思った。そうだ…今はこっちに集中しよう。レッドたちはナナシマに行って、原作通りなら、かなり痛い思いをしているかもしれないけれど、大丈夫。あたしが何かしなくても、上手くいく。そういう風に、運命は決まっているのだから。
あたしは強く腕を握りしめた。胸に浮かんだのは、どうしようもない、世界からの孤独感。所詮あたしは、別世界の住人だということ。
まあ、もうそんなことは塵ほども気にしていないけど…。内心で自嘲気味に笑いながら、気を紛らわすように大声を上げた。
「よし!じゃあ最初は今の試合を踏まえて、もう一度バトルしようか!」
「ッス!」
うん。あたしも、頑張ろう。
(080924)