[067] say said said
「雨の日って、なんかやだよね…。」
ビニール傘から透けて見える、灰色の空を見上げた。そこからは止め処なく雨粒が振り続いていて、今も安物の傘をバツバツと叩いている。
「そうか…?」
隣の真があたしの真似をして空を見上げた。まあ、彼の場合は黒い、なだか高級そうな傘だったから、空を見上げるのにも一苦労らしかったけれど…。
比べ、この前の夕立で、急いで買ったビニール傘は、実に安物で、どこにでも売ってそうな、彼の傘とは並べてはいけない代物だった。まあ、でも実を言うと、前に傾けた時視界が透けて広いままだから、普通の傘より使いやすかったりする。勿論、あたし個人の言い分だけど。
「だってそうじゃん…、ジメジメしてるし、寒いし、なにより濡れるじゃん。」
言ってる傍から、自分の靴が水滴を跳ね上げ、足にヒヤッとしたものが掛かった。ああ、どうしてこういう日に限ってスニーカーなんかで出かけてしまったんだろう…。ブーツだったらそんなに濡れなかったのに…。
「そりゃあ、濡れるが…。雨の日にしか感じられないことだってあるじゃないか。」
彼はそう言って、傘を立て直して、鞄を肩に掛け直した。あたしは思わず、そんな彼を凝視してしまった。
「…なんだよ…。」
不機嫌そうな目があたしを見やる。
「いや、素直に驚いた。」
「べつに変なことは言ってないぞ…?」
彼の眉間に皺が現れ、思い出すように視線を前に戻してしまう。
「そうじゃなくて、ただ、本当に驚いただけ…?昔の真は、そういうことあまり言わなかったなって…。」
やっぱり、しばらく会ってない間に、人ってこんなにも変わってしまうものなんだな…。なんだかちょっと、寂しいし、切ない…。
彼の視線があたしに戻ってきた。なんだ、そんなことだったのかって目が訴えていて、少し、微笑んでもいた。
「は、全く変わらないけどな。」
「…どうせ、あたしは心も身体もお子様なままですよ。」
唇を尖らせ、精一杯彼を睨みつける。でも、その言葉に少しだけ安心した。だって、こう言うやりとりは高校生の時から全く変わらない。あ!間違ってもあたしがMキャラだからとか、そんなことは絶対ないから!
ずっとそのまま睨んでいると、悪かったと言って、真はあたしの頭をグシャグシャっと掻き混ぜた。
「わ!ちょっ、何すんの?!一応、櫛で梳かしてきたんだからね!」
「どうせ、湿気の所為でボサボサだろ。」
「ひっど!そういうこと言うんだ!」
ちょっとは気にしてたことなのに…。バッサリ言い捨てることないじゃん…。
「っへ!お前なんか、雷に撃たれて死んじまえ!」
「安心しろ、その時はお前も一緒だから。」
「…何で?」
「お前、いつも俺と一緒だろ…。」
「あ、そっか。じゃ、なくて!」
あれ?今一瞬爆弾的発言がなされたような気がしたけど…。まあいいや、とりあえず流しておこう。今一番重要なのは、流れが完璧に「あたしをからかう」方向に向かっているということ。
あたしは懇親の乗りツッコミ(?)をかまして、彼の背中をバシンと叩いた。
「なんだよ。今に始まったことじゃないだろ?」
「いや、そりゃあそうだけど…。っていうか、今日のだめちゃんは?」
今日はやけに静かだと思ったら、真にぞっこんな不思議ちゃんの存在が見えない…。
「あいつは寝坊だ。」
「ええ??!!待ってなくていいの!?」
普通そこは待つものじゃない?大袈裟に驚いたあたしに、真は何故か不機嫌を再発させた。
「どうして俺があんな変人を待たなくちゃいけないんだ。俺の方が遅刻する。それに…」
そこまで言って、彼はしまったとでも言う表情でいきなり言葉を飲み込んでしまった。
「…それに?何…?」
「……お前には、関係ねーよ。」
「ええー、嘘だ!あたし分かってるもんね!真がそうやって口篭る時は大抵隠しごとしてる時なんだよ!あ!分かった!ホントはのだめちゃんのことす」
まで言って、目の前を星が舞った。真に後頭部を思いっきりはたかれたからだ。
「っぶ。」
「なんで、そうなるんだ!」
「…じゃあ、なんなのさ…、ちゃんと説明して!」
「だから、お前には…っ。……いつかな、…。」
「はあ…?」
あれ?何?どういうこと?一体どんな心境の変化?ポケーッとして気にせず進む彼の背中を見つめていると、「置いてくぞ。」と言われて、あたしは慌ててその背中を追い駆けた。
結局彼は、その後何も言ってはくれなかった。