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「行くのかい?」
「…ああ。」




 海を制する者は、世界を制する。俺の隣に立つアーサー・カークランドは、鋭い眼差しで海を見ていた。俺はそんな彼を、どこか誇らしく思った。むかしむかし、あんなに小さかった泣き虫坊やも、…子供の成長とはすえ恐ろしい。
 俺はひとつ、彼に言葉を返す。




「それじゃあ、俺も連れて行くといい。」




 俺は海、そのものだからきっと君の役に立つだろう。
 今まで真っ直ぐ海を見つめていたアーサーは、怪訝そうにチラリと視線を寄越した。…いいのか、そんなことをして。彼の目はそう物語っていて、俺はそれに笑顔で答える。




「そんなに心配そうにするなよ。大丈夫、これくらいで怒られはしないはずだ。それに」




 それに君の初陣じゃないか。友人として、それくらい祝わせてくれ。
 アーサーとの付き合いは、けっして短いものではない。俺は、海だから。島国である彼とは、彼が生まれたときからの付き合い。もちろん、彼の心配する理由も、分からなくはない。俺を連れて行くということは、つまり海の恩恵に預かるのと同義であり、それはとてもうまい話である。けれど、だからこそ裏があると疑うのは、共通の意識として当然のことだろう。
 だが、今回に限りそれは…杞憂にしかならないだろうよ、アーサー。だって俺は、海である前に、ひとりの人間でもあるから…。
 俺の微笑にアーサーは、悪人のような笑顔を返してきた。彼の華美な服装が、強い海風にバサリバサリと翻る。そうだ、彼は…アーサーは、海をも制する人間だ。一昔前となってしまったアントーニョなど、もはや彼にとってはどうでもいい存在だろう…。それほどまでに強くなった。それほどまでに、大きくなった。




「やけに気前がいいじゃねか、。普段の絶縁体勢はどうした?」
「どうもしないさ。今日はたまたま、そういう気分なだけだ。」




 アーサーはもう一度一笑して、視線を俺から外した。俺はその横顔を見続ける。ギラつく欲望を、まったく隠そうともしない自然体。まさにこいつは悪人面。これが本来、紳士の国だなんて…国民性とは奥が深い。アーサー、君はいったいなんて顔をしてるんだ。紳士として、いったいそれはどうなの?とも思ったが、それもそれで…いたって彼らしい。アーサーも、「イギリス」という国である前に、ひとり人間、ということか…。
 俺は、視線を海へと泳がせる。




「海は広い。人よ、貪欲であれ。そうら、もたもたしていると、」




 嵐にもまれて、消えてしまうぞ。






(090518)