[080] sit sat sat



「あ、やっぱりダイゴだった。」
「え?あっ、じゃないか!」




 石の洞窟でヨーギラスを育てていたら、不意に光りに出会した。洞窟の中で明かりを使うのなんて人間くらいしかいないから、誰かと思って目を細めれば、見知った頭が見えて、声をかけてみれば案の定、ホウエン地方チャンピオンのダイゴだった。足元にココドラがいて、リュックと、スコップみたいな物が散らばっている。きっと、また趣味の発掘だろう。あたしはちょっと笑った。仕事はいいのだろうか…。この前もこんな風に会ったような気がするけれど…。




「なんだかよく会うね。また発掘?」
「うん、少し時間が取れたからね。」




 子供みたいな笑顔で、その笑みと同じくらいキラキラと光る「太陽の石」を見せてくれた。あたしはしゃがむダイゴの隣に同じようにしゃがみこみ、彼のココドラをひと撫でする。彼のココドラも、いつもながら幸せそうだ。やっぱりトレーナーが楽しそうだと、ポケモンも楽しいだろう。




「にしても驚いたな。いきなり暗闇から声がするんだもの。何かと思ったよ…。」
「ごめん、ごめん。一応…ここ、ポケモンたちの住処だから、下手に荒らしたくなかったんだ。」




 言うと、彼もちょっとだけ笑った。きっと似たようなことを考えたんだろう。




「相変わらず、ポケモン思いなんだね…。」
「…そんなんじゃないよ。それが当たり前だと思ったから、そうしてるだけ。」
のそういうところが、ポケモン想いだって言うんだよ。」




 そして、今度は緩く笑われた。あたしは、なんだか照れた。ダイゴの物言いはとてもストレートで、周りくどいことをしないし、それが素面だから、聞いているこっちは少し恥ずかしい。話題を変えるために、今まで足元で光りに目をパチクリさせていたヨーギラスを紹介した。こっちで孵った、新しい仲間。生まれがこの世界だから、いつものように会話はできないけれど、コミュニケーションの方法なんていくらでもある。別に困ることはなかった。




「ヨーギラスか…、初めて見たな。ジョウト地方のポケモンだっけ?」
「うん。でもホウエンで産まれたんだ。だから、ジョウトは知らないの。」




 ダイゴはジョウト地方に行ったことある?目線をヨーギラスに揃えて、よろしくを言う後頭部に訊ねれば、いや。と否定の言葉が返ってくる。あれ?意外…。仕事で飛び回る彼なら知ってると思ったんだけど…。キョトンとしたあたしに、彼は乾いた笑いをした。




「カントーにはあるんだけど、ジョウトまでは…仕事でしか行ったことなくてね…。」
「うわ、何それ…寂しすぎるよ、いくらなんでも。まあ、でもしょうがないか。忙しそうだもの、ダイゴは。」
「ほんとに…。チャンピオンの仕事と、父さんの会社。もう目が回るよ。」




 苦笑しつつヨーギラスを撫でる彼の表情は、けれどどこか楽しそうで、いいなぁ…充実してるんだ。思わずこっちまで笑ってしまう、そんな色をしていた。




「この子もね、もう少し成長したらシロガネ山に連れて行こうと思うんだ。」
「へー、いいじゃないか。仲間がどんな場所で生活しているのか知っておくのも、この子の経験になると思うよ。」
「うん、だからそのときはダイゴも一緒に行こうよ。勿論、観光目的でね。ジョウト地方のこと、たくさん教えてあげる。」




 ジョウト地方には何があったっけ?いろいろありすぎて逆に迷うな…。コガネのラジオ塔には行った方がいいかな…。アサギの港に案内するのもいいかもしれない…。あそこは確か、ご飯が美味しかったな。…って、なんだか楽しみすぎて今からニヤけが止まらない。
 彼の方へ視線を向ければ、驚いたように目が見開かれていて、ああ、そっか…これはあたし、他人から見たらダイゴをデートに誘ってるみたいだね…。なんて思ったけれど、子供がお兄さんを誘ったところで、「遊びに行こう」程度にしか思われないから、別にいいか。と、浮かんだ考えを一蹴する。
 あたしは立ち上がって、彼も立ち上がった。当然だけど、ダイゴの方が10cmくらい背が高かった。仕種とか行動とか、どこか子供っぽいのに、こういうところはやっぱり大人の男の人で、なんだか複雑だ。それに、年齢だけでいうなら、あたしとダイゴ、実はあまり差はないんだよね…。実年齢はだいぶ違うけど。




「ええ?!いきなりだね。…でもいいな、ジョウト地方。何があるんだい?」
「えーっと、…キレイなところだよ、歴史もあるし。食べ物も美味しいんだ。」
「へえー、…。それは、楽しみだな。…分かった、頃合になったら連絡してくれ。電話番号は教えてあるよね。俺も予定を空けられるように調節するからさ。」
「うん、約束な。忘れんなよ。」
「もちろんだよ。…待ってるから。」




 何だかダイゴが恋する乙女みたいに見えて、思わず笑ってしまって、案の定「何だい?」って言われたけど、本当のことを言うと怒ると思ったから、テキトーに誤魔化して「それじゃあ」と言って彼と別れた。
 さて…、今度ダイゴに会うのはいつになるのだろうか。とりあえず、ヨーギラスがサナギラスに新化する寸前まで育ててからにしようかな…。なんてことを考えながら、あたしは再び暗闇の中に身を投じた。






(081103)