[087] stand stood stood



「混ざってくればいいんじゃない?」




 そんなに熱い目で見つめているのなら。俺は言いながら、フランシスの隣に立ち並ぶ。彼は一瞬、目を見開いて驚いた様子だったけれど、すぐにその表情を隠し、目線を前に戻した。今のはきっと、俺がここに居ることを不思議に思っての行動だろう。なぜなら今は、会議の休み時間であって、俺がいるのは少し不自然だから。「海」であるはずの俺が、「国同士」の会議場にいるのはお門違いだったから。けれどすぐに思いなおしたのは、「フランス」にだって海はあるから、俺がここにいるのも別に可笑しなことではない、と思ったからだろう。
 今回の主催国は、言わずもがな「フランス」だった。ところどころ、さすがフランシスといったところか、休憩所のような場所があって、国も人も関係なく、寛げるようなスペースが設けてあった。そして彼は今、その一角を見つめている。俺も同じように、その場所を見つめる。視線の先、菊とアーサーとピーターがいて、彼らはとても…楽しそうに笑っていた。




「んー?別にいいよ…、お兄さんは。それに、この距離から見るのがアレは一番キレイなんだぜ?」




 フランシスはそう言って笑った。何が「キレイ」、とは言わなかった。
 彼の目は、彼らに向いたまま身長差も手伝って、俺は彼の表情を窺えない。俺は繰り返し質問する。




「…そうか?」
「そうなの。それに、俺があいつらと仲良く談笑なんて、ありえないでしょ?」
「?そんなこと、ないと思うよ。それに実際、君らふたりは、結局なんだかんだいって、仲いいじゃないか。」




 フランシスが「あいつら」と指したのに対し、俺が「君ら」と断定したのは、会議の合間だって、不況の中だって、ぶちぶち喧嘩をしながらも、フランシスとアーサーは…仲がいい。と俺が思ったから。それに、フランシスがそういう風に表す相手なんて、アーサー以外に俺には想像できない。まったく、ケンカするほどなんとか、というのは、確か菊の国の教えだったか…。人間っていうのは、なかなかどうして、うまいことを思いつく。
 フランシスは一瞬クスリと、笑みを漏らし、案の定「いいや」と首を振った。笑いながら彼らを見つめて、その上で首を振った。俺は彼の表情を窺った。今度ははっきり確認する。
 幸せそうなによによ顔だった。




「ダメだな、ダメだ。それはアウトだぜ、?アーサーって野郎は、幸せすぎて死んじまうような、軟弱者なんだ。だから、そんな奴に、お兄さんみたいに愛に生きる色男は、勿体ないのよ。」




 言って、フランシスはカラリ、微笑んだけれど、はたして本心はいったい、何を思っているのか。それを知る術を、俺は持っていないけれど、彼らの過去を見てきた俺は、思わずそう…笑ってしまった。仲がいいという俺の台詞に対して、否定の意を述べることは予想できたけれど、こういった切り返しは、予想外だった。
 あの時代、アルフレッドがアーサーから独立したあの時代を、フランシスは知っている。アーサーが、ひとりぼっちだったあの時代を、アーサーの隣にアルフレッドがいて、幸せだった上での、あの孤独な時代を、フランシスは知っている。知っていてそれで、フランシスは近づかない。一番近いところにいるから、フランシスはそれ以上、アーサーに近寄らない。きっとそんなことをすれば、今度こそ完膚なきまでに彼は…。




「…名言。さすが、愛の国。」
「デショ?お兄さん、ほんとはすごいんだから。」
「でも、もったいない…。その才能が政界の方にも向けばいいのに。」
「うぇー…、相変わらずは手厳しい。菊もそういうの考え方、どうして受け継いじゃったのかな…。」




 実際には、俺の影響力というのは、万国共通な気がしたのだけれど、今のは皮肉として受け取っておこう。




「…お疲れさまです。」
「なーんかそれ、違う気するなぁ…。」




 フランシスはため息をついて、苦笑した。俺も笑った。
 俺たちの視線の先にはアーサーがいた。俺たちの視線に気づかずに、アーサーが笑っていた。とてもキレイな表情で、アーサーは笑っていた。






(090601)