[005] become became become
「寒!」
俺は反射的にそう叫んだ。冷たい風が髪を撫でる。
「だったらマフラーつけて来いよ。」
隣の土方が、赤いマフラーを引き上げながら、呆れの色をした目で俺を見た。
「マフラー、俺、似合わないんですー。」
「マフラーが似合わねーやつなんて、聞いたことねー。」
「うっさい!自分でも分かってるし!」
自分の吐息で温めていた手で彼の背中をバシンと叩いた。
今日は帰りがたまたま一緒になった。お互い、高3だし。いろいろ忙しくて、滅多なことがないと一緒に帰るなんてことないから、今かなり複雑な気分。
「赤いマフラーがバッチリ似合ってる十四郎くんには分からないよ、きっと。」
「そうだな…。俺も人間の考えることだったら少しは理解できるんだが…。」
「…、何それ。まるで俺が人間じゃないみたいじゃん。」
「何だ?今頃気づいたのか?」
「うっざ。」
見上げた彼の表情は、あきらか俺をバカにしているもので、勢いに任せてさっきよりも強く叩いてしまった。結構いい音がしていたけど、いいや、自業自得。
「だって、なんかマフラーとかって首がチクチクしない?」
「しない。」
「長さとか、着こなしとか難しくない?」
「んなの巻けば全部いっしょだろ…。」
あああー!何で分かんねーのかな!!心の中で悶絶。まあでも、仕方ねーか。俺も土方も、こういうものの考え方だし、別に否定はしないけどさ…。分かろうって気はないよな、少なくとも。
「いいよ、もうマフラーは。ずっと前からつけてなかったし。」
「そうなのか?」
「うん、小学校の頃から。」
「小学校って、お前…。」
土方が不思議な生き物でも見るかのように俺を見た。まあ、俺も、自覚はある。小学校の頃からだなんて。思わず絶句ものだろう。
「小学校って、何年前だ?そんなときからマフラーつけてねーんだったら、寒いのに慣れてんじゃないのか?」
「慣れてないんだな、これが。俺、冷え症だから。」
ほら、と手握る。あいつの手も相当冷たいって、誰かが言ってたけど、やっぱり新陳代謝能力の欠けた俺よりも冷たいということはなかった。
手が繋がる。体温が繋がって…。
「、お前…。不健康にもほどがあるだろ…。」
「へへ、今朝体温計ったら35度だった。」
「笑い事じゃねーよ、それ…。」
土方の呆れ顔。俺の方は笑いがおさえられなくて、ずっとこれが続けばいいのに、なんて無理に決まってるから、今幸せなんだけどな。
(080910)