[007] bend bent bent



 窓側の席、前から2番目。あたしの後ろの席の 、本日は「智惠の輪」に夢中のご様子。あたしは、「何やってんの…?」と分かっていながらも、そう訊ねてみる。机の上にはまだ手付かずの知恵の輪2つが並んでいて、なんだかとっても暇なご様子です。
 今時、知恵の輪にハマる高校生なんて、暇人としか言えないと思うんだよね…、あたし的に。


「あ、、おはよう。」
「…おはよう。じゃなくて、何で知恵の輪なんてやってんの?」
「…?買ったからに決まってんじゃん。」


 ああ、もうこいつは…。そんなこと訊いてるんじゃないんだけどな…。少しだけイライラしながら、鞄を机の脇に引っ掛けて、彼女の机の上にある知恵の輪をひとつ手に取ってみる。
 なかなかに難しそうだけど、案外簡単なようにも見える。


「えーっと、何を言えばいいのか分かんないけど、とりあえず3つセット1050円で買ったから、暇だし学校に持って来てみただけなんだけど…。」
「…ふーん。」


 そう言えばこの時間って、いつもいるんだよね…。毎朝、毎朝、クラスで1番に教室に入って、何やってんだろうって思ってたけど、やっぱり独りって暇だったんだ…。


「取説とかってある?」
「あるよ。箱ごと持ってきたからね…。ちょっと待って…、はいコレ。」
「……ありがとう。」


 あれ?あたし「取説」って言ったはずなのにな…。そう思いながら、から知恵の輪が入っていただろう箱を受け取る。なんだよ、こいつメンドくさいからって箱ごと渡すなよ…。でも、言っても無駄だろうから、仕方なく箱から紙を取り出す。
 対象年齢、3歳から大人まで。


はそれ、解けたの?」
「ん?解けない。」


 ああ、やっぱり。


「ねえ、あたしもやってみていい?」
「いいよ、3つあるし。そっちのは解けたから。」


 そう言って、あたしが持っていた方の知恵の輪を目で示して、自分はすぐにまた智惠の輪に没頭し始める。こいつ、暇だったんじゃなかったのかな…。すっごい、真剣にやってんだけど…。つか、こっちは解けてんのに、そっちのは解けてないって…。実は、3才児以下の頭の構造してんじゃないだろうか…。
 と、誰かの足音が近づいてくる。この時間に登校する人数は限られているから、きっとだろうな…。あ、そう言えばあたし久しぶりにより先に来たんじゃね?


「何で2人して知恵の輪なんてやってんの?」
「何でって暇だからだよ。おはよう。」
「おはよう。あたしも暇つぶしに。」


 案の定、は物珍しそうな表情をしながら、うちらを見てきた。加え、彼女が「何で、こんな真剣そうにやってんの?」と目で訴えてきたから、呆れの色を含めた目で「いつものことだよ」とアイコンタクト。


「ふーん。」
「何かすっごい、興味なさ気だね。も1つやってみたら?ハマるかもよ。」


 全く興味ないですのを完璧に無視して、は彼女に残ったもうひとつの知恵の輪を渡す。


「対象年齢3歳から大人まで。因みに、はまだ解けてないから3歳以下。」
「…普通そういうふうに捉えるかな…。」


 が複雑な表情であたしを見てきたけど、面倒だから軽くシカトしてやる。すると不意に彼女の背中の向こうのが目に入る。あれ?なんか知恵の輪に没頭してる…?


「今度は3人揃って何やってるんですかィ?」


 そうこうしている内に、いつの間にか時計は8:25を刻んでいて、朝練組の登校時間になっていた。今話しかけてきたのは、総悟で鞄を自分の机に掛けて、の手元を興味津々に覗きこむ。


「知恵の輪。俺これ分かんないから総悟やってみる?」
「?」


 から知恵の輪を受け取って、ガチャガチャやりながら自席につく。そして、いつの間にか総悟も知恵の輪にハマる。
 知恵の輪ってそんなに面白いのかな…。っていうか、この知恵の輪に何かあったりして…。まあ、そんなわけあるわけないか…、と思いつつ手元の知恵の輪を眺める。


「ね?結構難しいでしょ?」
「はあ…?何言ってんでさァ。こんなの子供騙しですぜィ。こうすれば一発でィ」
「ああ!ちょっと待って!力いっぱい曲げないで!」


 ニッコリ笑いながら、ギリギリと知恵の輪に力を込める総悟から、慌ててが知恵の輪を奪う。


「もうホント止めろよな。1個、350円ぐらいするんだからさ…。」
「350円でそんなに言うんじゃねーよ。がめついなー。」
「お前が言うな、お前が。」


 ッバンと、彼女は総悟の頭を叩いた。「いてー、暴力はんたーい。」と呟いて、目線をあたしに合わせる。


「コレのどこが面白いんですかィ?」
「さあ?あたしにはサッパリ。O型って妙なポリシーあるから、気にしなくていいんじゃない。」


 それにもともとって、どっか変だし。と付け加えれば、総悟は笑って、「それもそうですねィ」と返答してくれる。


「……ねえ、それって軽く馬鹿にしてるよね?俺、軽く馬鹿にされているよね?!」
「気にするなよ。いつものことでしょ。」


 それに今更だし。そういう含みも込めて、そう言ってやれば案の定「いや、何でもない。訊いた俺が間違ってた。」と脱力しきった感じに呟かれた。
 はは、あたしに歯向かおうなんて10年早いよ。