[016] catch caught caught



 昔の小説を見つけた。今はもう使っていないルーズリーフに書かれていて、まったく何も考えていないような文章構成。とにかく、読んでいてむず痒い。気持ち悪い。昔の自分が書いたものだから、気持ち悪くて当然なんだけど、これを友達に読んでもらっていたのを思い出すと、当時の自分はまだまだ子供だった。
 …思いのほかダメージが強い。俺は額に手をやった。無謀すぎだろ、自分…




「何やってるの?」
「あ、…。」




 教室で読んでいたから興味を持ったのだろう、が俺の手元を覗き込んだ。




「中二の頃のな、小説が出て来たんだ。」
「へえ、見して!」
「あ、いや…。それはちょっと…。」




 純粋な興味からだろう、が手を伸ばしたけど、寸前で俺はルーズリーフを机の中にしまう。あまり見られて、いいものじゃない。俺にとってこれは、アルバム並みに見られたくないものだ。いや、もしかしたらアルバム以上かもしれないけど…。
 案の定、彼女はムスッとして表情をした。




「えー、どうして?」
「んー、まあホラ古いやつだからさ。ちょい恥ずかしいのよ。」




 うん、流石にこれは彼女にも見せられない。
 そのまま、なんだかんだで押し問答を繰り広げていたら、周りの人も、俺にとってはあまり嬉しくはないが…、興味を持ってしまったのか、視線を飛ばし始めた。…、何だかマズイ雰囲気。




「何だ、ケンカかィ?」




 ホラ来た、総悟だ。しかも心なしか楽しそう。彼は今は空いている高杉の席にドカリと座り込んだ。ちなみに今、この席の持ち主は行方不明だ。遅刻か、サボりか。どっちにしろ、今はいない。




「違うよ。が小説、見してくれないの。」
「小説?」
「うん、中二のときに書いたんだって。」
「…はあ?」




 いや、「はあ?」はないだろう、「はあ?」は。いくらなんでも傷つくって。まあ…、予想は、できたが。内心、溜め息をつきつつ、さり気なく机の中のファイルに触れる。




「あんた、小説なんて書いてたんですかィ…?」
「書いてたよ。中一の頃からね。」
「…初耳でさァ。」
「まあ、あまり大きな声では言ってないからな。」




 っていうか、こういうのは、言い触らすようなものではないか…。総悟が大きく目を見開いて、俺の机を覗き見る。さり気なく体でその視線を遮る。




「何々?楽しそうな話してるんだったら、私も混ぜてよ。」
「おわっ。…っ。」




 肘の辺りから不意に声が聞こえて、見たらが膝立ちで俺たちの顔を見上げていた。気配がなかった。いきなりすぎる、思わず心臓が止まるかと思った。しかも、背もたれに思いっきり肘ぶつけた。地味に痛い。




が自作の小説持って来てくれたんだって。」
「いや、だいぶ違うよね?俺、君らのために持って来た覚えないよ。」
「マジか。じゃあ、見ないと!」
「いや、だから違うって言ってんじゃん。話し聞けよ…って、言ってる傍から机あさってるし!」




 防ごうと思ったが、の方が一歩姑息だった。そして、最悪なことに俺の机からルーズリーフが数枚引き抜かれていってしまった。




「うわぁ、なんか時代を感じるよ、このルーズリーフ。」
「だから、中二の頃に書いたやつだって言っただろ!いいから返せよ!!」




 必死で奮闘するものの、悲しいかな、彼女が腕を伸ばして天井高く掲げてしまうと、あと3cm程紙に届かない。だとしても、このまま総悟の手に渡ってしまうのは冗談じゃない。




「ちょっ、ほんとに勘弁して。ほんとに恥ずかしいの…。」




 なんか俺、これじゃあフツーにイジメられてる子だよな…。なんて、口に出して言ったら、ヘタレだからしょうがないよ。って、に言われて終わりだから言わないけど…。うわぁ、っていうか今ものすごく恥ずいんですけど…っ。
 と、ここで誰かがの手から俺のルーズリーフを奪った。




「いい加減にしろ、てめえら。迷惑だ。」




 奪って、俺へと返してくれた。土方だ。不機嫌なのか、それともこれが常なのか、眉間に皺を寄せている。




「あれ?土方さんは興味ないんですかィ?が書いた小説ですぜィ。」
「ない。」
「なんかカッコいいこと言ってるけど、ほんとは興味津々なだよ。」




 奪われたのが不服だったのだろう、が土方を睨みながら言った。




「なんだかんだ言って、土方もヘタレだからね。」
「…そうだった。」
「思い出したように言ってんじゃねーよ、総悟。最初から違う。」
「なんかさっきのと言ってること似てるよ。やっぱりヘタレはヘタレ同士、気が合うんだよ!」




 なんだか頭が痛くなってきた。まったく収拾がつかない。これではヤマなし、オチなし、意味なしだ…。
 きっと、夏だからだ。暑さに頭がやられたから、こんな無意味な話にみんなが集中しちゃうんだ。そうだ、きっとそうなんだ。そういうことにしておこう…。
 さり気なくルーズリーフを机にしまいながら、俺はこの不毛なやり取りが早く終わることを祈った。