[027] fall fell fallen



 今朝、都心に雪が降った。ヒラリ、ヒラリ。積もるようで積もらない、そんな降り方。だけど、雪が降っていることには変わりない。俺は電車で行くことにした。自転車は流石に止めたほうがいいと思った。だって、さみィし、服が濡れる。
 だから、今日は少し遅れた。




「ご、ごめん!ちょっと遅刻…っ!」
「遅ーヨ、阿呆チン。もう定春の餌終わっちゃったネ。」




 大きな白い犬、定春の前でビン底眼鏡を掛けた、自称留学生の神楽は腕を組んで仁王立ちで俺を睨んだ。定春の世話は俺と神楽しかやってなくて、餌やりくらいしかやっていない。だから、その仕事が終わったということは、つまり本日の世話は終了したということになり、




「だからごめんって!俺も急いできたんだけど、ホラ!今日雪じゃん?」




 世話を全て彼女に任せてしまったということ。俺は、両手を前に合わせて頭を下げる。でも、俺の事情も分かってほしい。俺の熱意が伝わったのか、単に飽きただけなのか、神楽は「仕方ねーから、今回のところは許してやるヨ。」と吐き捨てるようにだけど、言ってくれた。
 っていうか、阿呆チンって言われて予想外に結構なショックだった…。




「ごめん、ホントにごめん…。今度何か奢るよ。」
「マジか。だったら、酢コンブ宜しくネ。」




 酢コンブか…。彼女らしいといえば彼女らしいけど、もう少しかかるやつでも良かったのに…。そう思ったけど、今の俺の立場でそんなことは言えない。もしも彼女が俺のことを思ってそう言ってくれてたんだとしたら、おもっくそ俺KYだ。




「っていうか、もう終わったって…、神楽何時にここ来たの?」
「いつもどおりヨ。」
「…いつもどおりって、もしかして自転車?!」




 定春の餌やりは外でしかできないから、今もヒラヒラと雪が舞っている。とてもじゃないが、かなりのチャレンジャーじゃないと、この中を自転車で行こうなんて考えないって俺、思ってた…。
 ええ…、って思わずドン引きしたら、神楽は心外だと言わんばかりの表情をした。




「何言ってるネ!雨の日よりもずっと走りやすいヨ!!こんな天候も走れないようじゃ、まだまだへなちょこあるな。」




 んで、見下したような目で俺を見やる。そして、「みたいなへなちょこはほっといて、向こうで遊ぶアル!」とか何とか言いながら、そのまま定春と一緒にグランドに飛び出して行ってしまった。




「いや、べつにこんな中走りたいとも思わないし…。」




 そう独り言を零しながら、彼女と一匹を遠くから見つめた。
 やっぱり神楽って無茶苦茶すげー…。