[028] feel felt felt



 自習の時間、真剣に勉強なんてする気なんてサラサラなくて、なんとなく久しぶりに授業時間に屋上に足を運ぶ。どうせ、教室でも騒がしいばっかりで真面目に勉強なんてしてる奴なんていない訳だから、ひとりくらい減っていたって誰も気づきやしないはずだ。
 屋上への扉を開ける。季節は秋に入ったばかり。寒いとまではいかないが、少しだけ風が肌に染みる。秋風、強風。これなら煙草の1本でも吸えそうだ…。
 そして、彼女と鉢合わせする。総悟の隣の席、 …。正直、彼女が教室にいなかったのに気づかなかった。俺が気づいたのと同時に彼女も俺の存在に気づく。彼女は、片膝を立てた体制で壁に凭れながら、ビックリした表情で俺を見やる。


「あれ?土方じゃん…。どした?こんな場所で。」
「そっくりそのまま、お前に返してやる。」


 俺はサボり。自習なんてやってられませーん。と適当に言いながら、隣座る?と誘ってくる彼女の好意に甘えて、隣に腰を下ろす。


「んー、土方がサボるなんて印象ないから、珍しいな?どういう心境の変化?」
「それを言うならお前だってそうだろ?」
「俺はー、あれだ。心境の変化?っつーか、気分の問題で。」


 そんな単純な理由で教室抜け出すなよ。と言いたい所だが、生憎俺も似たような理由なので、そーかよ…。と、適当に返して、学ランの内ポケットから煙草の箱とライターを取り出す。


「………。」
「…何だよ。」


 そんなに物珍しそうに眺められては、流石に居心地が悪い。俺の不機嫌丸出しの質問にも「んー」みたいな適当な表情。


「いや、吸ってるとは知ってたけど、まさか他人の前で吸うなんて思わなかったからさ。」
「別にお前チクったりしねーだろ。」
「いや、まあ、そうなんだけどさ…。」


 何となく言葉を濁す彼女に、だったら別にいいじゃねーか。と言って、1本取り出し、咥えて火をつける。


「えー、やっぱり吸うのー?俺一応吹奏楽部で肺は大事にしてるんだけど…。」
「知るかそんなの。俺がどこで吸おうと勝手だろ。隣で吸われんのが嫌なら、さっさと教室に帰るこったな。」


 眉間に皺を寄せる彼女を軽く無視しながら、1度紫煙を吐き出す。ま、別にいいんだけどね。そんなことも…。と無気力気味にそう言いながら、額を立てた膝の上に乗せ、俯く形になる。
 なんとなく、今日のコイツはいつもと違う気がする。いや、いつも少しだけ周りとズレてはいるが、今日のこれは、そのいつもよりも酷いと思った。だからなのか、俺の口が、勝手にコイツを気遣う言葉を発していた。


「…、土方に心配されるようじゃ、遂に俺も終わったかな…。」
「んだと?オイ、テメー。そりゃ一体どういう意味だ?」


 俯いた顔を少しだけ上げて、それでも顎を膝の上に乗せながら、苦笑する彼女に怒りが込み上げてくる。人が心配してやってるのに、なんだと思ってんだコイツは…?


「うん、まあ。俺の頭の中には、クジラが住んでるんだー…。」
「……、はあ?」


 やっと口を開けたと思ったら、訳の分からない言葉が飛び出してきた。いきなりすぎて話しが全く見えない。大体なんで鯨なんだ?もっと他にもいるんじゃねーのか?女子っていつもこんな変なこと考えてんのか?
 いや、コイツだけか…。


「んーっと、名前はノーマルにクジラ。好きな食べ物は無いし、嫌いな食べ物も無い。好きなものは無いけど、嫌いなものは俺。」


 ………。


「口癖は「死ね」、「消えろ」、「ウザい」。そして、主に言われる対象は俺。まあ、嫌われてるから当然なんだけどね…。」


 ……。


「んでな。時々、そいつが、暴れだすんだ…。」


 何も考えていない表情で、何も思っていない表情で、虚ろ、そのものの表情でそう言う彼女。空気が重かった。煙草の灰が落ちてしまうのも忘れて、ただ、彼女を見ていた。


「頭の中で、ガンガン喚いて、おさまらない…。」


 そして、膝に顔を埋めてしまう。


 俺は、隣に居てやることしかできなかった。