[046] know knew known



「どうした?浮かない顔して…。」


 いつもの場所で先に昼食を始めていたに、高杉が声をかける。


「んー、いやね。の嫉妬って凄いなって…。」
「はあ?!あいつが嫉妬?…勘違いなんじゃねーか?」


 あいつ、どっからどう見ても、嫉妬してるようには見えないぞ…。そう返せば、いや、これが案外しぶといんだな…。なんて、分かったような台詞が返ってくる。


「訊いたのか?」
「ん?…まあ、訊いたって言えば訊いたって感じかな…。」


 隣に座りこむ高杉の質問にんーっと考え込む。いやね、前に一緒にテレビ見た時、ラブシーンが入っちゃってさ。それがの好きなキャラだったらしくて…。うーん、何か後はもう暴走だったって記憶が…。


「暴走って…、あのがか?」
「そうそう、あのが。」


 お相手の方に、「死ね」とか「ウゼー」とか「はあ?!マジで消えろだし…。」とか真顔で言ってんの。あれ、はもう度を越してるよ…。心の芯からマニアだね。逆に気持ち悪いくらいなんだけど…。


「まあ、もう慣れたし。」
「…お前もとんでもないな…。」


 やだなー、あたしは至って普通な高校生です。嘘つけ。真顔で言ってる奴ほど侮れねーんだよ。


「で?それがどうしたんだ?そんなのお前となんも関係ねーじゃねーか。」


 ビリビリ、とパンのビニールを開ける高杉の言葉に何故だか、沈黙しか返さない。不思議に思って顔を覗けば、いつもの彼女からは考えられないような表情。
 …?


「うん、…そうなんだよ。あたしは、全然関係ないの。でも、…でもね。一瞬だけ、いつも一瞬だけ、…それが向けられる時があるの。」


 それって言うのは、その嫉妬の感情ってやつだと思うんだけど…。とにかく、その時のの表情はね。目に何もこもってないの。無感情だよ。まるで、こっちがからなんとも思われていないような錯覚にさせるほど、感情がこもってないの…。


「あ、でも、ホントに一瞬だよ。本当に一瞬だけ。多分、自身も気づいてないような気ぃすんだよね…。だって、そんな目が出た直ぐ後も、変わらずいつものだもの…。」


 いつもみたいな、何かちょっと抜けてる感じの…。いつもの…。ったく、そういう目ができるんだったら、あたしよりも、土方に言い寄ってくる人たちに言えばいいのね?と、そう言って、彼女も少しだけ微笑する。


「まあ、いいんじゃねーか。人間、所詮はそんなもんだ。それに、お前だって、それが無意識的なものだと思うんだろ?人間、心の中じゃ、何考えてるか分かんねーいきもんなんだ。あいつが、直に言ってこない限り、気にすることねーよ。」
「…んー。まあ、そうだね…。いや、その通りだよ。やっぱ、高杉。いいこと言うじゃん!君だったら、を任せられるよ。」
「は?!何でそこでが出てくんだ?全然関係ねーだろ?」


 いやいや、あたしが抹殺した敵は軽く3桁行くよ?彼女の何気ないその言葉に思わず背筋がゾッとした。それと、何でが今までフリーなのか分かった気がした。


「あー、そうだ。人間、そういういきもんだ。見た目だけで判断するのも人間だけだしね。」


 持っていた箸をいったん、弁当箱の蓋の上に置いて、両手を上に伸ばしてグーっと伸びをする。


「そう言えば、高杉も見た目不良だもんね。」
「…別に、どうだっていいだろ…。」
「分かった!そのガーゼ、っつーか、モノモライのソレが原因でしょ!取っちゃえば?どうせ、目はなんともないんでしょ?」


 コイツ話し聞いてたのか?それとも、わざとシカトしたのか…。軽く流しながら、自分の左目にかかったガーゼを指差す彼女の態度からそう思いつつも、何で、お前がんなこと知ってんだ?と問う。確か、にはまだ言ってなかったような気がするが…。


「あれ?2人とも先に食べ始めちゃってんの?」


 焼きそばパンの袋を片手にいきなりが2人の前に現れる。


 ――その瞬間、俺は、彼女と一瞬だけ視線が交わる。交わった彼女の目は、奥の方の何かが、スゥーっと、細められ、


 無感情なものに、変化、して…




「なんだよー。待っててくれても良くない?」
「お前が無駄に遅いからだろ?」
「え?何その言い方。だったら、それ、や土方や総悟にも言えよ。」
「何言ってんの?あの人たちにはちゃんとした理由があるでしょ?」


 彼女のスパッとした物言いに、え?ちょっと待って、それってほんのり傷つくんですけど…?と言いながら、俺の隣に座る。俺は、あの時の、視線が交わった一瞬を思い出す。


 ああ、確かに。アレは…。