[096] understand understood understood



 放課後、3年Z組、窓側の席、前から2番目。俺は半分くらい、夕日に顔を当てられながら、ただボーっと自分の手を見つめていた。肘を立てて、指を伸ばす。手のひらが広いのに、全然長くない指。しかも太い、可愛らしいとはほど遠いような自分の手。親の遺伝だからって、流石にこれは残念すぎる…。どうにもならないけど、そう言いたい。
 教室の中は俺ひとりだけだった。時間が時間だし、忘れられがちだけど、一応これでも受験生だから。部活の人は部活の人で、この時期はどこも追い込みだと思うし…。実際に吹奏楽部は追い込みの時期だ。この前合宿に行ったし、今は間近に迫った文化祭に向けて猛特訓中。ちなみに俺は、受験生っていう名目で少しだけ部活にいなくてもいい。って言っても、それをダシに今サボってるようじゃ、全くの無駄なんだけどな…。
 っていうか俺、相当暇だ。部活行けばいいんだけど、なんかそれはやだし…。誰か、誰でもいいから来ないかな…。あー…、でもみんな部活だし、ないやつらはとっくのとうに帰ってるよなぁ…。
 ため息を突いて、立てた肘を伸ばして、机に突っ伏した。




「何やってんだ?」
「…、あれ…?え?…トシ…?」




 いきなり声を掛けられて、不思議に思いながら顔を上げたら、とっくの昔に帰ってると思ったトシが、いた。え…、マジでどんなタイミング…?俺、色んな意味で寿命が縮んだ…。何だ、この少女マンガみたいな状況…。




「手に変なものでもできたのか?」
「え、いや…。全然、そうゆうんじゃなくて…。」




 どうして、あんたがこんなところにいるの?っていうか、それは女性に対するデリカシーの欠片もないね…。その言葉は、でも言われることなく、俺の胃辺りに引っ込んだ。代わりに出ていたのは、なんもなくて、ホントにただ、ボーっとしてた。のひとこと。
 ふと、彼の手が視界に入る。彼の手、男性の手。俺のとは、似ても似つかない…。太い、太いけど…、格好いい…。
 和やかな空気が流れる。俺もトシも喋らないけれど、なんとなく、それでもいいような。




「ここ、なんか…落ち着かない?」




 視線はそのまま、彼は窓の向こうを見ていた。空気も、変わらずに。




「そうだな、静かだし。」
「うん。」
「……。」
「……。」
「…、お前が」
「ん?」
「お前が、外から見えた。」




 空気は変わらない。トシも変わらない。俺は少しだけ笑った。




「なんだよ、それ。」
「面白いだろ?マンガっぽくて。」
「言えてる。」




 窓の外は、もう暗かった。
 今日は一緒に帰れるかもしれない…。