小さな期待を胸に
「とトシがさー、付き合い始めたたんだってー。」
「らしいですねィ。ったく、あの人もやっとでさァ。」
「だよねー。しかも、なーんか相思相愛っぽかったらしいし…。」
「マジでか。それは初耳ですぜィ。」
「うん、あたしも驚いた。だって、あのだよ。」
「だよなァ…、あのだもんなァ…。」
学校から駅までの道のり、あたしは総悟と並んで歩き、今日あったことを話し合う。今日、学校に来てその話しを4人から訊いた。勿論、驚いた。けれどやっぱり嬉しかった。だって、なんて自分の気持ちが分かっているのかどうかさえあやふやだったし、トシの方もそんなあいつに一歩遠慮してたし…。だって、付き合う段階に行くまでの一歩の勇気が足りないみたいだったし…、晋助の方は…、あーでも彼はやっぱり何かやりそうだったな…、腹は決まってたけど、タイミングがって感じだったし…。
あたしは、そうだな…、あたしは…。そう考えて、口を噤んでしてしまう。…今、隣には彼がいる。けれど、彼の考えていることだけは、どうしたってよく分からなかった。いや、もうしかしたら、心のどこかで、分かりたくなかったから、分からなかったのかもしれないけれど…。兎に角、彼の考えていることだけは、よく分からなかった。
だから、あたしもトシやのことを言えた立場じゃない。だって、あたしにも残りの一歩が足りないのだから…。
「晋助の奴もとくっ付きましたねィ。」
「あー、ね。あたしはあのプリ見た瞬間、「晋助、かっけー!!」って思ったよ。」
「そうかィ?晋助のアレはやりすぎでィ、が可哀想でさァ。」
「まあまあ、そこは晋助だし…。つか、あのプリのラクガキはがやったんだって。」
「マジでか、それも初耳でさァ。ったくの情報網には敵わねーや。」
「そんなことないよ。だって総悟だってあの2人組がくっ付きそうな予感とかはあったんでしょ?」
「いやいや、そんな謙遜しなくてもいいですぜィ。」
「いや、だから。そんなことないって!あたしにだって、分かんないことあるよ!」
「そうなのかィ?…例えば?」
「例えば?…うーん、そうだな…。あたし、総悟の気持ちだけはよく分からない…。」
言った瞬間に隣の存在が立ち止まった。…………ん?もしかしてあたし、ヤバいこと言った?この話しの流れ的に、ヤバいこと言っちゃった?!ハッとして、何かを言おうとしたけれど、もう会話が途切れていて、修復が困難になっていた。
どうしよう…。なんか変なこと言った…。あたし、思いっきり変なこと言った…。
……、でも…もしかしたら、コレが丁度いいのかもしれない…。が叶った、も叶った。だから、今度はあたしが頑張る番かもしれない…。
あたしは、振り向いて、勇気を振り絞って、…口を開いた。
「あのさ。」「あのさ。」
………ハモった。
「あー、いや…。総悟、先どうぞ…。」「、先いいですぜィ。」
…またハモった…。どうしよう、これ…。あたしから言った方がいいのかな…。つか、ここまで綺麗にハモるって、どんだけだよ…。
「 」
「…え?ごめん、今なんて言った?考えごとしてて…、意識が半分で…。」
自分の心臓の音に邪魔されて、彼が何と言ったのか全く聞き取れなかった。頭がパンクしそうだった。口から心臓が出せそうだった。目の奥がジンと熱く痺れて、今なら緊張で死ねると思った。
彼は、足元に落としていた視線を上げ、あたしの目に合わせた。彼の真剣な瞳、あたしは周りの雑音が全部聴こえなくなった。
「好きって、言ったんでィ…。」
そして、初めて目が合った。学校からここまで、どちらもなんとなく居辛くて…、目を合わせるのが躊躇われて。だから、今初めて、彼と目が合った。そしたら、不思議と落ち着けた。パンクしそうだった情報は、きちんと整理されて、あるべき場所へ戻って行って。喉の辺りにあったように思えた心臓は、ちゃんと定位置に戻り。目の奥の現象も静まった。そして同時に、自分が何を言わなくてはいけないのかが、自然と頭に浮かんだ。
あたしも…、あたしも…。
「あんたは、どうなんですかィ…?」
「あたし…?……好きだよ。あたしも…、あたしも総悟のこと、好きだよ。」
それを聞き取った彼は、安心したかのように、ゆっくりと息を吐いた。らしくもなく、彼が緊張していたことが分かった。
「あー、緊張したー…。」
「緊張してた?」
「当たり前でィ。ったく、は余裕だねィ…。」
「全然、そんなことないよ…。あたしだって、さっきまでカチカチだった。」
「絶対それ嘘だぜィ。」
「嘘じゃないよ。総悟の顔見たから、冷静になれた。」
またしても彼の足が止まる。不思議に思って彼を振り返ったら、真っ赤な顔と目が合った。
「あんた、そりゃあ不意打ちでァ…。」
「あれ?そうかな…?」
珍しすぎる総悟の真っ赤な顔を見て、謀ったわけではなかったけど、ちょっと面白かった。うん、総悟がこんなに純な性格の持ち主だったなんて意外だったな…。
「あーあ、最後までにしてやられた。」
「はは、総悟もまだまだだね。」
「…それ、誰の真似ですかィ?」
「んー?ナイショー。」
あたしは満面の笑みを浮かべる。心のわだかまりが全部取れていて、今はとても気分が良かった。彼は、もう一度息を吐いた。
「これから、どっか行きやせんか?」
「?どうして…?」
「記念でさァ。」
子供っぽい笑顔と一緒に、彼が隣に戻ってきた。あたしの顔には自然、彼と似たような笑みが浮かんでいた。
「いいよ、どっか行こっか。」
ホントは塾があるんだけど…、ま、いっか…。